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2026.10.23 ゲノム言語モデルで生命科学を「観測」から「制御」へ
― AIによる予測と実験を循環させる次世代生命科学研究基盤の構築を始動 ―
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(機構長:喜連川優)は、未来科学システム共創施設バイオ生成AI研究開発センター(ALIS)および国立遺伝学研究所(所長:近藤滋)を中心に、 AIによる生命現象の予測を実験で検証し、得られたデータをAIの学習・高度化へ還元する循環型(or DBTL型)の生命科学研究基盤を構築します。 その中核となるのが、膨大なゲノム情報を学習し、生命現象の理解や予測、設計に活用する「ゲノム言語モデル(Genome Language Model:gLM)」です。
本取り組みは、研究開発課題「ゲノム言語モデルによる次世代生命科学研究基盤の創出」 (研究開発代表者:国立遺伝学研究所・教授、バイオ生成AI研究開発センター(ALIS)・センター長 黒川顕、共同研究開発代表者:バイオ生成AI研究開発センター(ALIS)・准教授 東光一)として、 科学技術振興機構(JST)の「AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)」戦略ターゲット型に採択され、2026年10月から2029年3月までの2.5年間で実施します。遺伝子からウイルス、微生物、ヒトまで、 さまざまな生命スケールでgLMの予測を実験的に検証し、その結果をモデルの高度化へと還元することで、生命現象の観測・解析を中心とした研究から、AIによる仮説生成、予測、設計、実験検証という新たな研究サイクルを導入し、 生命科学を「観測」から「制御」へと発展させることを目指します。
発表のポイント
- 科学技術振興機構(JST)の「AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)」戦略ターゲット型に、研究開発課題「ゲノム言語モデルによる次世代生命科学研究基盤の創出」が採択。2026年10月から2029年3月までの2.5年間、国立遺伝学研究所を中心に研究開発を進めます。
- ゲノム言語モデル(gLM)の予測、設計を、遺伝子からヒトまで多様な生命スケールで実験検証し、得られたデータをgLMへフィードバックするDBTL型研究基盤を構築。AIと実験を一体化し、gLMを継続的に高度化します。
- 全生物ドメインを対象に、ゲノム情報に進化系統情報や環境情報を統合した40B級gLMを構築。生命科学、創薬、感染症、バイオものづくりなど、幅広い分野に共通して利用可能な国産バイオ生成AI基盤モデルとして公開します。
- 2026年11月12日(木)に、JST ARiSE T2に採択された研究プロジェクトを紹介し、バイオ生成AI研究の今後の展開について議論する「バイオ生成AI研究会」を開催します。
- 日時:2026年11月12日(木)13:00~17:00(予定)
- 会場:トラストシティ カンファレンス・丸の内
- 参加費:無料
- 詳細・参加申込: https://forms.gle/hus8STBGb5kUVNBeA
概要
近年、生命科学では、さまざまな生物のゲノム情報が急速に蓄積されるとともに、こうした大規模なデータをAIに学習させ、生命現象の理解や予測に活用する研究が進んでいます。 なかでも、ゲノム配列に含まれる複雑なパターンや特徴を学習する「ゲノム言語モデル(gLM)」は、遺伝子の機能やゲノム配列の特徴を予測するだけでなく、新たな配列の生成や設計にもつながる技術として注目されています。 一方、AIによる予測を実際の生命科学研究に活かすためには、モデルの性能を高めるだけでは十分ではありません。 AIが導き出した予測を実験で検証し、成功例だけでなく、予測と一致しなかった結果を含む実験データをモデルへ還元する仕組みが必要です。
本プロジェクトでは、国立遺伝学研究所が有するゲノム研究と実験研究の基盤を活かし、gLMの開発と実験検証を一体的に進めます。 AIによる仮説生成・設計、実験による構築・検証、得られたデータの再学習を循環させるDBTL(Design-Build-Test-Learn)型の研究基盤を構築し、実験結果をgLMの学習へ還元することで、モデルを継続的に高度化します。
研究期間終了時には、全生物ドメインを対象とし、ゲノム情報に加えて進化系統情報や環境情報を統合した40B級gLMを構築します。 さらに、gLMを利用・評価するための環境を整備し、生命科学、創薬、感染症、バイオものづくりなどに共通して利用可能な国産バイオ生成AI基盤モデルとして公開します。
背景
ゲノムには、遺伝子の情報だけでなく、遺伝子の働きを調節する仕組みや、生物の発生、環境への応答、病原性など、生命現象に関わる多様な情報が含まれています。 しかし、ゲノム配列からこうした生命現象をどこまで理解し、予測できるかは、生命科学における大きな課題の一つです。
近年、大規模言語モデル(LLM)で発展したAI技術をゲノム情報に適用する研究が急速に進み、gLMによってゲノム配列の複雑な特徴を学習し、遺伝子の配列や機能を予測したり、新たな配列を生成したりできることが示されてきました。 一方、モデルの大規模化だけでなく、研究目的に応じた質の高いデータを整備し、AIが導き出した予測を実際の生命科学実験によって検証し、その結果を再びモデルの学習に活かす仕組みが必要です。
国立遺伝学研究所は、長年にわたりゲノム研究を推進しDDBJやDBCLSを中心とする生命科学データ基盤、先進ゲノム支援プラットフォームによる高度なゲノム解析基盤、NBRPを通じた多様な生物資源など、 ゲノム情報から実験研究までを支える幅広い研究基盤を有しています。本プロジェクトでは、こうした「データ」「解析」「バイオリソース・実験」をつなぐ遺伝研の強みを活かし、gLMの開発と実験検証を一体的に進めます。
本プロジェクトの特徴
1.AIによる予測と実験を循環させるDBTL型研究基盤
本プロジェクトでは、gLMによる仮説生成・設計(Design)、実験系の構築(Build)、実験による検証(Test)、得られたデータの学習(Learn)を循環させるDBTL(Design-Build-Test-Learn)型の新たな生命科学研究基盤を構築します。 AIによる予測や設計を実験で検証し、そこで得られたデータを再びモデルに還元することで、AIと実験が相互にフィードバックし、モデルを継続的に高度化する研究サイクルを実現します。
2.遺伝子からヒトまで、多様な生命スケールでgLMを実証
gLMの予測・設計能力を、遺伝子、ウイルス、ファージ、細菌、真核微生物、ヒトなど、異なるゲノムサイズや生命システムを対象とした実験によって検証します。 多様な生命スケールで得られた実験データをgLMへ還元し、モデルの高度化につなげます。
3.gLMを国内外の研究者が利用できる共同利用基盤へ
開発したgLMを特定の研究グループに閉じることなく、国内外の研究者が利用できる共同利用基盤として展開します。 DDBJやDBCLSとの連携の下で、gLMを利用するための推論環境を整備するとともに、研究機関、医療機関、企業が持つデータや知識を継続的にモデルへ反映可能な仕組みを整備します。
4.全国から挑戦者が集う「ALIS Open DOJO」
次世代の生命科学を担う人材を育成するため、全国の大学・研究機関から学生や若手研究者が集い、分野や所属を超えて研究に挑戦する「ALIS Open DOJO」を展開します。 AIを単に利用するだけでなく、gLMの開発・学習・改良から、AIによる仮説生成、実験設計、オミックス解析、モデル更新まで、AI・データ・実験をつなぐDBTLサイクル全体を実践し、自らバイオ生成AIを構築・発展させることのできる人材を育成します。
5.Bio-AGILEを通じた産学連携と社会実装
バイオ生成AI実証・実装コンソーシアム「Bio-AGILE」を通じて、企業や研究機関との連携を広げます。創薬、感染症、バイオものづくりなどの研究・産業課題における検証を進め、 得られた評価や知見をモデル改良へフィードバックすることで、基盤gLMの高度化と社会実装を一体的に推進します。 また、gLM の活用可能性を検証するとともに、バイオセキュリティ、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)なども検討します。
期待される成果と主な目標
本プロジェクトでは、2029年3月までに、以下の成果の実現を目指します。
1. 全生物ドメインを対象とする40B級gLMの構築・公開
ゲノム配列に進化系統情報・環境情報を統合した40B級gLMを構築し、生命科学、創薬、感染症、バイオものづくりに共通して利用可能な国産バイオ生成AI基盤モデルとして公開します。
2. gLMの利用・評価・高度化を支える研究環境の整備
gLMを利用するための推論APIと、その性能を検証する評価APIを提供するとともに、軽量ファインチューニングやFederated Learning(連合学習)を可能とする仕組みを整備します。 研究機関、医療機関、企業が持つデータや知識を継続的にモデルへ反映し、gLMの利用と高度化が循環する研究環境を構築します
3. AIを活用した「予測・設計型」の生命科学研究への展開
gLMと生命科学実験を組み合わせることで、従来の観測・解析を中心とした生命科学研究から、AIを活用して仮説生成・予測・設計を行い、実験によって検証する研究への発展を促します。
4. 次世代バイオ生成AI人材の育成
gLMの開発・学習・改良から生命科学実験まで、AI・データ・実験を横断する研究を実践できる人材を育成します。 全国の学生や若手研究者に、分野や所属を超えた研究機会を提供し、バイオ生成AIの開発と生命科学への応用を担う次世代研究者の育成を目指します。
さらに将来的には、本研究基盤から生み出される大規模な設計・構築・計測データと、継続的に学習したgLMを、仮想細胞・生体モデルやデジタルツインなどの実現を支える基盤へと発展させます。
事業概要
- 事業名: AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)
- 研究タイプ: 戦略ターゲット型
- 戦略ターゲット: T2「戦略ターゲット2」
- 研究開発課題: ゲノム言語モデルによる次世代生命科学研究基盤の創出
- 研究開発代表者: 黒川 顕(国立遺伝学研究所 教授)
- 研究期間: 2026年10月~2029年3月(約2.5年間)
研究開発実施体制
研究開発代表者
黒川 顕
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
国立遺伝学研究所 情報研究系 教授
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
未来科学システム共創施設 バイオ生成AI研究開発センター(ALIS) センター長
共同研究開発代表者
東 光一
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
未来科学システム共創施設 バイオ生成AI研究開発センター(ALIS) 准教授
【参画機関】
研究開発分担機関
- 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS)
- 学校法人立教学院 立教大学
- 公立大学法人大阪 大阪公立大学
- 国立大学法人東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)
- 国立研究開発法人理化学研究所
- 学校法人早稲田大学
- 国立大学法人新潟大学
- 国立大学法人東京科学大学
連携・協力機関
- 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
- 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)
- 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)
- 国立大学法人筑波大学 微生物サステイナビリティ研究センター(MiCS)
民間連携パートナー
- ソフトバンク株式会社
- SB Intuitions株式会社
- 株式会社Arrowsmith
【関係者コメント】
研究開発代表者 黒川 顕
生命の基盤であるゲノム情報が、どのように生命の多様性と機能を形づくっているのか。その問いに答えるべく、研究を続けてきました。 ALISセンターに集まってくれている若手研究者たちが、自由な発想と好奇心を原動力にgLM研究を発展させ、新しい生命科学を切り拓いています。 本プロジェクトに参画いただいた研究者の皆様とともに、生命科学を「観測」から「制御」へと進める研究基盤を築いていきたいと考えています。
共同研究開発代表者 東 光一
ゲノム配列に加え、生物の進化系統や環境の情報を取り入れたゲノム言語モデルの開発に取り組みます。 実験グループと協力し、予測がどこまで実際の生命現象を捉えられるかを検証しながら、モデルの改良を進めます。 性能と適用範囲を丁寧に確かめ、多くの研究者が自身の研究に活用できるモデルと利用環境を整えていきたいと考えています。
国立遺伝学研究所 所長 近藤 滋
AIが生命をどこまで理解し、予測できるのか。それ自体が、生命科学における大変興味深い問いです。 本プロジェクトでは、ゲノム言語モデルによる予測を実験で確かめ、その結果を再びAIに学習させることで、AIと生命科学を一体として発展させることに挑戦します。 ゲノム研究、データ基盤、多様な生物資源、そして実験研究を併せ持つ遺伝研の強みを活かし、これまでできなかった生命科学研究に挑戦していきたいと考えています。
情報・システム研究機構 機構長 喜連川 優
本プロジェクトは、ゲノム配列を「言語」に見立て大規模言語モデル技術を応用することで遺伝子の変異が生物の機能に与える影響の予測、遺伝子の制御の重要領域の理解や新たなDNA配列生成を可能とする新たな生命科学の可能性を開く重要な研究分野です。 情報・システム研究機構ではこの領域の重要性を鑑み昨年から新時代の生命科学研究をリードするAI駆動型生命科学研究拠点「バイオ生成AI研究開発センター」を発足して研究を開始していますが、本採択により研究が一気に加速することを期待しています。
お問い合わせ先
研究内容・プロジェクト全体に関するお問い合わせ
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
国立遺伝学研究所 情報研究系 教授
バイオ生成AI研究開発センター(ALIS)センター長
黒川 顕 email:kk at nig.ac.jp
事務手続き・連携等に関するお問い合わせ
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
国立遺伝学研究所 リサーチ&イノベーション・ブリッジセンター ORD
電話:055-981-5835 email:ask-ord at nig.ac.jp
報道に関するお問い合わせ
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 本部広報室
電話:03-6402-6200 (代表) email:koho at rois.ac.jp